ところが実際には、kは実際には株を暴力団に売ったことも、その交渉をしたこともなかった。被告等は詐欺と脅喝の両方の被害にあったのである。
そもそも、ミシン会社に関心を持つ暴力団がいるのかどうかが疑問であるし、被告らと協議していたメインバンクの主脳は通常の判断能力があれば嘘と分かるほどのものであったと刑事裁判で証言している。しかも、被告らはkから買主として稲川会系の具体的な会社名まで教えられたが、その資金力や本当に買ったのかどうかについて全く調べることをせず、警察に相談することもなく、kの言葉をそのまま信用したのである。更に問題であったのは、蛇の目には顧問弁護士がいたのに被告等は具体的な協議をしなかった。もし、顧問弁護士に相談しておれば、kの言葉を疑い警察に届けることや、本当に譲渡がなされていないことが分かれば詐欺による取消しを行うとか、または強迫によるものとして取消しの通知を行う等の措置がとれたであろう。更に、被告の一人がkから強制されて書かせられた、k所有株を蛇の目で買取る旨の念書の無効を通告する等の対応がなされたであろう。
被告らが顧問弁護士に具体的な対応を相談しなかったということは、相談すると反対されると考えたからであろう。そうだとすれば、被告らには過失ではなく故意があったことになる。被告らは実際背任罪を恐れていたのである。被告らは、会社を詐欺や恐喝から守るべく何らの行動をしていない。取締役を開いてKに対し、株式買取りを明確に断るという基本的なことをしていない。また、全ての被告が直接Kから脅迫を受けたのではなく、その意味で冷静な判断をすることができた被告もいたのである。
私たち弁護団は、訴訟を起こせば当然勝訴するものと考えた。
ところが、裁判所の判断は異なっていた。