裁判所の判断

  東京地裁民事8部の判決は199頁という膨大な量であったが、被告らの責任を判断した部分はわずか3頁で中味は全くなかった。
大株主としての権利を濫用して会社の経営に混乱を生じさせる旨脅迫し、その威力を背景に会社の損害の下に自己の利益を図ろうとしたKの不当な要求に対し、蛇の目ミシンが企業として存立していくためのやむを得ない選択としてKの要求に応じたもので、通常の企業経営者として本件の解決方法以外のより適切な方法を選択するべき法的注意義務はなかったし、
債務肩代り等についても、その前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく意思決定の過程・内容が企業経営者として特に不合理・不適切ではなかったと抽象的に判示したのみである。
前述のような問題点を一切検討していない、驚くべき粗雑な判決であった(裁判長 小林久起)。
控訴審判決(東京高裁民事20部)も同様に被告らの行為は脅迫によるものでやむを得ず、過失がないとするものであった(裁判長 石垣君雄)。
銀行の主脳もガードマンをつけたし、被告らの中にはホテルに偽名を使って泊まり、生命身体にも危害を加えられると脅えさせたので過失はないとした。しかし、Kの脅迫はあったとしても、もし要求に応じなければ個人の命をとったり、傷害を加える等ということまでKが考えていたとは考えられない。
このような判決の背景には脅された経営者の守ってやろうとする裁判官の配慮が先立っており、脅かされれば自分の身を優先して守り、会社の経営者としての会社に対する義務を放棄しても責任がないと判断したのである。
取締役の個人的利益を会社の利益に優先してはならないという忠実義務の観念をこの判決は知らないのである。