山口です。

みなさん多重債務という言葉をご存じでしょうか?
簡単に言えば借金を返せなくなって困っている状態をいいます。

消費者金融(いわゆるサラ金)が10年ほど前から
テレビに大々的にコマーシャルを打つようになり,
消費者金融に対する心理的抵抗が下がり,借りやすい雰囲気が作られました。
私などは歳のせいもありますが,祖母などに「サラ金からは借りるな!」などと
学生のころから口を酸っぱくしていわれ,借りたら終わりというイメージがありました。

皆さんはこのような借金の問題をどのように思われるでしょうか?
一時流行っていた言葉(今も?)に倣えば,借り主の「自己責任」なのだから,
一生返し続けるべきだと思われるでしょうか?

確かに,「自己責任」という言葉は事態の反面を言い当てています。
自らの収入予測と支払い予測が甘かったというのは否定できない事実です。
しかしながら,多重債務の問題の深刻さは「自己責任」という言葉で
言い尽くせるものではありません。

多重債務の問題は,「死に至る病」です。
それは,大げさではなく,生命に関わる問題なのです。
弁護士をやっていれば,借金が原因思われる自殺,
その遺族からの相談に必ず遭遇します。
借金で自殺するということは,そう遠い話ではないのです。

「自己責任」という言葉を振りかざして本人を責めることは簡単です。
しかし,必要なことは,多重債務という「死に至る病」から本人の生命を守る
治療とその回復を支える援助なのです。
多重債務を「死に至る病」にたとえましたが,
私は多重債務はガンと同じだと考えています。

ガンになる原因には,たばこ,飲酒,運動不足,不摂生な生活等々,
いろいろあるでしょう。この意味では「自己責任」という側面もあります。
しかし,「自己責任」であろうがなかろうが,医者はガンから
本人の命を守るために全力で治療し,その回復を援助します。
医師がガンに向き合うがごとく,弁護士も多重債務というガンから
本人の命を守るために全力で治療し,その回復を援助するのです。
尊敬する弁護士の言葉を借りれば,弁護士の仕事は,
本人を守ること,そして,本人の回復を援助することにこそあるのです。

自己責任という言葉は借金を原因として本人が死を選ぶことも正当化します
(本人がそれを選んだんだから,本人の責任でしょ?という論理)。
私は特別,博愛主義者ではありませんが,そんな私であっても,
人の命はそんなに軽いものではないと思います。
自己責任という考え・言葉よりも人の生命の方が重いものであるとするならば,
自己責任という言葉で本人を責めるよりも,本人の生命を守ること,
その回復を援助することこそ問われなければならないはずです。

これを読まれている方の中にも,多重債務の問題に
困っている方もいらっしゃることでしょう。
あなたの友人に多重債務の問題を抱えている方がいるかもしれません。
必ず弁護士に相談にしてください。
ここ数年で多くの弁護士が多重債務の問題に取り組むようになりました。
ですので,必ず,弁護士につないでください。

自己責任という言葉で本人を追い詰めることは簡単です。
ただ大事なことは,人が生きているという事実です。
この事実の方が圧倒的に重いのです。
我々はこのような気持ちで,多重債務の問題に日々取り組んでいるのです。