不倫を理由に損害賠償請求を受けた事件が少し前に和解で終了した。
被告代理人として受任したものだが、この原告とその配偶者は問題の事件の前から、離婚騒動が持ち上がって、お互いに離婚条件または裁判で有利になるよう、証拠確保みたいなことをしていたようである。
不倫の事実自体を争ったが、訴訟でお互いの主張が出揃っていない段階で裁判官から和解勧告を受けた。勧告の理由は、主張が出揃ってしまうと和解が難しくなるということだった。和解の中心は、不適切な関係があったとして、和解金を支払う内容である。一旦まとまるかに見えたが、和解条項の文言を巡り紛糾し、不調に終わった。
お互いの事実関係に関する主張を、準備書面や陳述書(当事者本人、証人予定者が事実経過を述べた書面)を出して、整理し、提訴から約1年経って、証人及び当事者尋問を行った。
尋問終了後、裁判所は直ちに弁論を終結した。弁論終結後は、新たな主張、証拠は出せず、後は裁判所が判決を書いてその言渡をするだけのはずであった。
ところが、裁判所は、予め尋問終了後の時間を確保していて、当日尋問のために出頭した当事者本人を裁判官室に招き(代理人同席)、本人から直接事情を聞きながら、改めて和解のための説得を試みた。
裁判官はそんなに判決を書きたくないのか、とお思いの方もいるだろう。当事者側から見ると、判決の内容は、一般的に自己に都合よく考えているものの、逆の判断をされたらどうしようという気持も否定できない。まず、判決内容に不満な当事者は控訴して、改めて控訴審の裁判が始まる。そして、もしも私の依頼者に対し、原告の請求の一部でも支払を命じる判決が出され、「仮執行宣言」が付けられていた場合には、控訴するだけでなく、強制執行停止申立を裁判所に申し立てなければならない。仮執行宣言が出された場合、判決確定前であっても、強制執行の申立ができ、依頼者の、例えば給料などが差し押さえられてしまう危険があるのだ。強制執行停止決定を出してもらうには、裁判所が決めた金額の金銭を供託しなければならない。その上に控訴審の弁護士費用並びに打合せの手間などがかかる訳である。
したがって、依頼者は、このような事態になる可能性(判決後の経済的、時間的負担)をも考慮し、和解の諾否を決定しなければならないだろう。代理人は、この辺の情報をできるだけ正確に伝え、依頼者が納得できる和解条件を提案しなければならないと思う。本件では、裁判所の和解勧告の結果、先に不調に終わった和解条件と余り変わらない条件で和解が成立した。しかし、お互い徹底的に争って、証拠調べを完了した段階での和解は、不満がないとはいえないが、当事者にとっては、ある程度納得ができたのではないだろうか。