離婚事件の設例(婚約解消、不倫を含む)

Q1.いつの間にか結婚していた?
A男は、見合いしたB女と結婚することになり、新婚旅行後、婚姻届を役所に提出しに行ったところ、A男は、見知らぬC女と結婚したことになっていました。A男はどうしたらよいのでしょうか。
A1
  C女を相手に婚姻無効の調停を申し立てます。
役所はA男とC女が戸籍上結婚しているので、重婚禁止の規定に触れるとして婚姻届を拒否します。しかし、A男にはC女と婚姻する意思はないので、婚姻は無効です。役所から婚姻届の写しを入手し、それを証拠(A男の署名が偽造)にして調停を申し立てるのがよいでしょう。C女が無断で届出をしたことが明らかになったときには、調停が成立するか、合意に相当する審判で婚姻無効を認めてもらえることになります。もしも調停手続が不調に終わったときは、婚姻無効確認の人事訴訟を起こさなければなりません。このようにして、調停、審判または判決が出てから、戸籍を訂正し、その後にB女との婚姻届が受理されることになります。
  虚偽の婚姻届をした者は公正証書原本不実記載罪などに問われ、刑事責任を負うことがあります。

Q2.離婚届にサインして相手に渡したが、撤回したい
夫と喧嘩し、激しい口論の末、離婚届に署名捺印して夫に渡してしまいましたが、後で冷静に考えると、今後の生活不安もあり、離婚はできません。届を出されたら離婚になってしまうのでしょうか。
A2
 役所で離婚届の不受理申出という手続をしておけば、離婚届を出されても離婚は成立しません。
  手続は役所(本籍地が望ましい)の戸籍係で用紙をもらって必要事項を記入して提出するだけです。ただ、不受理申出の有効期間は6ヶ月ですので、なお無断で離婚届を提出される不安があるときは6ヶ月毎に同じ申出をすることになります。不受理申出の前に離婚届が提出されてしまったときは、離婚無効確認の調停を家庭裁判所に申し立てなければなりません。

Q3.協議離婚したが、財産は分けてもらえないのか?
2ヶ月前に協議離婚しました。その際、子供の親権で争いになり、どうしても欲しかったので、夫に言われるままに、「財産は一切請求しない」という念書を書いて差し入れてしまいました。夫から財産を分けてもらうことはできないのでしょうか。
A3
  念書その他タイトルいかんにかかわらず、書かれている内容で判断されます。
内容は、夫に対し財産的請求をしないことを約束した(権利の放棄)と解されます。自分の意思でサインした以上、相手に脅かされたり、無理矢理書かされたなどの自分の意思に反して書かされた事情がない限り、慰謝料や財産分与の請求はできないと考えられます。
  しかし、養育費については、それが子の親に対する権利という性格が強いので、これまでも放棄する趣旨であったかは大いに疑問です。

Q4.離婚~会社名義の財産はどうなるの?~
離婚に際し、夫の経営する会社名義の財産は財産分与の対象となるのでしょうか。
A4
  会社には固有の法人格があるので、夫とは別人格の第三者ですから、その保有財産自体は財産分与の対象となりません。
したがって、夫及び会社代表者が話し合いに応じなければ会社財産の分与を求めることは困難です。
しかし、夫自身が持っている会社の株式は分与の対象となります。市場性がない場合、株式の評価の問題はありますが、実質的に会社財産が分与の対象として計算されることになります。
また、会社形態を取っていても、実質は個人経営で夫と同等の立場である場合は夫の財産として分与の対象となる可能性があります。

Q5.離婚~住宅ローンが残っている~
この度、協議離婚することになりました。子供はいません。主な財産は自宅で、夫が所有しているのですが、多額の住宅ローンが残っています。このような場合はどう分けたらよいのでしょうか。私(妻)もローンの連帯債務者(保証人)になっている場合はどうなりますか。
A5
 住宅(土地・建物)とともに、夫婦の共同生活で形成された債務も財産分与の対象となります。
住宅については、財産分与の対象財産の評価に際し、不動産価格から債務を引くことにより実質的に両者が債務を負担したのと同様にすることが考えられます。例えば、住宅の価格が5,000万円でローンの残高が3,000万円とすると、2,000万円の価値があるものとして、その半額の1,000万円を財産分与額として加えます。
その際金銭で支払を受けずに、住宅自体の分与を受けることも可能ですが、夫が住宅ローンの返済を延滞したときは住宅を競売にかけられて失ってしまう危険があります。
住宅ローン債権者との関係では夫の債務であるものの、二人の間では支払の分担を取り決める方法も考えられます。しかし、妻が分担の約束を果たさない場合は、夫が債権者に対し全責任を負うことになります。
  夫婦が連帯債務者になっている場合(妻が連帯保証人になっているときも同様です)、住宅ローン債権者が承諾しない限り(承諾することは通常ありません)、二人ともローン完済まで責任を負うことになります。

Q6.養育費・婚姻費用の算定
家庭裁判所では子供の養育費、正式離婚前の婚姻費用(生活費)分担額は、どのように決められるのでしょうか。
A6
  最近では、裁判官達が作成した算定表(養育費・婚姻費用算定基準とも呼んでいます)をベースにして調停、審判、協議されることが多いです。この基準では夫と妻の税込年収と子供の人数・年齢に応じて、2万円程度の幅で養育費や婚姻費用の金額が掲載されています。手に入らないときは御一報下さい。

Q7.離婚~慰謝料、養育費を全く払ってこない~
夫と離婚する際に、夫が慰謝料と養育費を分割で払う約束を書面でしましたが、全く支払ってきません。どうしたらよいでしょうか。
A7
  分割で支払うという書面が家庭裁判所の調停調書や公証役場で作成した公正証書であるか、二人で作成した協議書、合意書などであるかによって異なります。
  二人で作成した合意書などの場合は、地方裁判所または簡易裁判所に訴訟を起こすことが必要です。訴訟の結果、請求を認める判決が出たり、和解ができれば、その判決正本や和解調書を利用して、公正証書と同様に、後記の強制執行手続を取ることができます。
  家庭裁判所の調停調書があるときは、申立により家庭裁判所から夫に対し、「履行勧告」や「履行命令」を出してもらえます。正当な理由なく履行命令に従わないときは、10万円以下の制裁があります。しかし、あなたに強制的に支払わせることはできません。この場合も強制執行手続を取ることになります。
  強制執行は夫名義の財産に対する差し押さえですが、実効性があるのは、給料と預貯金です。ただし、給料については勤務先の会社名と所在地、預金については銀行名及び支店名まで把握していなければなりません。
  慰謝料の場合、例えば300万円を分割で支払う約定であった場合、「2回分以上遅滞したときは期限の利益(分割の利益)を失い、残金を一括して支払わなければならない」といった記載があれば、300万円全額を請求できます。預貯金を差し押さえる場合、残高もしくは請求額まで差し押さえることができますが、給料の場合、税金及び社会保険料を引いた残額(手取)が44万円以下のときは、その額の4分の1までしか差し押さえられません。
養育費の場合、通常、上記のような残金を一括支払わなければならない場合の記載は設けられていません。預貯金の場合、遅滞分しか差し押さえできません。しかし、給料を差押さえる場合は、遅滞分だけでなく将来の分も含めて(養育費の合計が600万円だったら600万円に達するまで)1回手続を取ると、毎月差押さえることができる上、上記手取額の2分の1まで押さえることができます。

Q8.離婚~養育費~
元妻が子供を引き取って離婚し、養育費をずっと支払ってきましたが、この度私(元夫)が再婚し、子供ができました。生活がきつくなるので、今まで通り養育費を払うことができません。どうしたらよいでしょうか。
A8
  養育費の支払をすぐに止めるのではなく、元妻と話し合って事情を説明し、減額を求めてみて下さい。話し合いがつかないときは、家庭裁判所に養育費減額の調停を申し立てて、調停委員に事情をよく説明して下さい。調停申立をしなければ、履行勧告、履行命令の対象になる他、強制執行を受けるおそれがあります。

Q9.離婚原因
  夫は普段は優しいのですが、酒を飲むと大声を出し、暴力を振るいます。離婚は認められるでしょうか。
A9
  民法で定められている離婚原因の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たると考えられ、認められるでしょう。粗暴な性格や酒乱に起因する執拗に繰り返される暴行はそれ自体上記事由に該当します。一過性の暴行で、その原因が妻にある場合は離婚が認められないことがあります。

Q10.有責配偶者
  夫の浮気が判明し、問い詰めたところ、逆に夫は家を出てしまい、離婚すると言い出しました。夫からの離婚は認められますか。
A10
  婚姻を破綻させた原因を作ったもの(有責配偶者といいます)からの離婚請求は認められません。しかし、夫婦の別居が長期間にわたること、夫婦の間に未成熟の子がいないこと、並びに相手方配偶者が精神的・社会的・経済的に過酷な状態に置かれないことを条件に、有責配偶者からの離婚請求を認めた判決があります。

Q11.協議離婚に応じないときはどうする?
  離婚をしたいのですが、相手方が協議に応じません。どうしたらよいでしょうか。
Q11
  相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てます。

Q12.調停に出頭してこない
   相手方が調停に出頭してこなかったときはどうなりますか。
A12
  家庭裁判所調査官に出頭勧告をしてもらいましょう。それでも出頭しないときは、調停は不成立で終了します。訴訟を起こすことになります。

Q13.裁判所で離婚したときも届出は必要?
  調停、訴訟での和解、判決によって離婚が成立した場合にも届出が必要ですか。
A13
  届出が必要です。調停、和解の場合は、それぞれ調停調書謄本、和解調書正本を、判決の場合は判決正本と判決確定証明書を添付して、市区町村に届け出ることになります。

Q14.離婚と改姓
  離婚した場合、名前を変えなければなりませんか。
A14
  婚姻によって氏を変更した配偶者は、婚姻前の氏または離婚の際称していた氏のいずれを選んでもよいことになっています。ただ、離婚の際称していた氏を称するときは、離婚の日から3ヶ月以内に届け出なければなりません。

Q15.親権者の指定
裁判において親権者を指定する場合の判断基準を教えて下さい。
A15
① 父母の健康、精神状態、生活態度、経済状態、家庭環境、住居、教育環境、②父母の子に対する愛情の度合い、③看護補助者の有無、補助の程度、④父母の再婚の可能性、離婚の有責性、⑤子の年齢と意思などを総合的に考慮して決めるとされていますが、幼児の場合、従前の養育状況で決まるようです。

Q16.親権者の変更
  協議離婚または裁判離婚で定められた親権者の変更はできませんか。
A16.親権者変更の家事審判を、子の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。親権者の養育監護の現状に問題があるときは認められることがあります。

Q17.退職金を半分取れるか?
  退職金は財産分与の対象になるか。
  既に受領した者は通常預金になっているので分与の対象となります。至急が決まったものも分与の対象となります。将来支給される退職金については不確定要素(退職時期、支給見込額、支給されない場合があること)があるため、問題ですが、財産分与の決定に際し考慮する裁判例が多くなっています。

Q18.年金分割
  離婚調停申立に際し、年金分割の案分割合はどうしたらよいでしょうか。
A18
  現在の夫婦関係調停申立書には、「申立の趣旨」の「夫婦関係解消」の中に「申立人と相手方との間の別紙  (年金分割のための情報通知書)記載の情報にかかる年金分割についての請求すべき案分割合を
□0.5    □(   )と定める」
と不動文字で書かれており、分割を求める側(通常は専業主婦)が「0.5」つまり婚姻期間の保険料納付実績の半分(法律で認められる最大限です)の分割を求めることが多いということを前提にしているといえるでしょう。

Q19.婚約解消
  婚約を解消されました。相手方に損害賠償請求をすることができますか。
A19
  嫁入り道具の返還や結納の返還を求めることはできます。また、正当な理由がなく婚約を解消した当事者は損害賠償責任を負います。裁判で、正当な理由とされたのは、相手方が第三者と情交を結んだ場合、事実上婚姻した場合、相手方の性格異常、肉体関係を強要された場合などがあります。正当理由が認められなかった例としては、親の判定、性格の不一致、相手方の父の前科の発覚、信仰の相違などがあります。