弁護士になりこの10月で8年が経ちます。

弁護士になりたての頃、ボス弁から「裁判官みたいなことを言うな」とよく小言を言われたのを覚えています。「裁判官みたい」というのは、ほめ言葉ではありません。闘う姿勢のない弁護士を叱責する常套句です。

弁護士は依頼者の代理人ですから、依頼者のために闘う姿勢がなければなりません。裁判官なら原告と被告双方の言い分を聞いて、第三者として判断すればすみます。

しかし、弁護士は、裁判官のように中立的に考え、高台から眺めるようでは駄目だ、というのです。

中立、公平な立場で交渉や裁判に臨んで、相手が強硬に攻めてきたらどうなるでしょうか。譲歩に譲歩を重ね、結局は依頼者に不利な妥協を強いられることになるでしょう。

よって、緒戦には強力に依頼者の立場を主張すべきです。

しかし、弁護士は、一方では依頼者を代理する立場にありながら、他方では、自己の主張を裁判官という第三者によって判断されてしまいます。あまりに一方的な主張をすれば、裁判官に簡単に否定されてしまいます。反面、あまりに中立的な主張をしては、依頼者の利益を最大限に守ることはできません。


こうして弁護士は、依頼者の立場を主張しなければならないという要請と、裁判官(第三者)に通用する主張をしなければならないという要請とのジレンマに立たされます。

このジレンマを解くため、私は「一応の合理性の認められる最大限の主張(金額)」を裁判官(相手)に提示することにしています。

「依頼者の代理人ではあるが、依頼者と一体化してはならない」

これもボス弁から言われた言葉ですが、裁判官(或いは相手)の視点から事実を見ることを意識しなければならないというのです。

ところが、これは「言うは易く、行うは難い」です。

弁護士になりたての頃を振り返ると、依頼者と一体化してしまい自己の主張をすることに気を取られ、相手の主張に反論できていない(自己の弱点をよく見ていない、相手の急所も押えていない)書面も少なくなかったと思います。

依頼者のために闘う姿勢を根本に持ちつつも、依頼者から一歩引いたところから、さらに言えば、裁判官のように高台から事件を見る目が重要なのです。

信濃法律事務所

弁護士 臼井 義幸