最近うれしいことがありました。
 長年連れ添った内縁のご主人が亡くなられた後、奥さんの方が遺族厚生年金を申請したところ、社会保険事務所から不支給決定を受けたため、不服申立て(審査請求)したが棄却、さらに、社会保険審査会に再審査請求をしたところ、何と、これが認められたのです。

 事案の説明に入る前に、手続の流れをご覧ください。
社会保険審査会における審査手続(厚生労働省ウェブサイト)
 
 
 事実経過の概要は、以下のとおりです。

 空知地方に住む炭坑夫のA氏は、昭和20年代半ばに結核を患って入院を余儀なくされましたが、姪のB子さんが献身的に付き添って看病に当たった甲斐もあって、2年後に退院を果たしました。Aさんは、こんな身体だから外から嫁をもらうことはかなわない、B子さんと一緒になりたいと、B子さんの母親に頼み込んだところ、母娘の承諾を得られ、晴れてA氏はB子さんとささやかな祝言を挙げて事実上の夫婦となりました。
 その数年後、A氏の兄の1人が没した後は、その子Cを養子として引き取り、ABご夫妻は40年余にわたって仲睦まじく暮らし、C氏も結婚して孫ができ、親族一同や近所の人々など誰もがうらやむ幸せな夫婦関係を築いてきました。
 
 ところが、昨年A氏が亡くなられた後、B子さんが内縁の妻として遺族厚生年金を申請したところ、北海道社会保険事務所は、ABご夫妻は叔父・姪の関係にあり民法の近親婚禁止規定に抵触するから、厚生労働省の行政解釈によればB子さんは厚生年金保険法で受給権者と規定されている「配偶者」には該当しない、として不支給処分としました。

 本件と同様に叔父・姪の内縁関係が40年余も続いたケースにつき、個別事情を考慮し、近親婚を禁止すべき公益的要請より遺族の生活安定と福祉向上に寄与するという厚生年金保険法の目的を優先すべきとして、姪に「配偶者」としての受給権を認めた
最高裁判決が出されていたので、C氏がその新聞記事を持参して慎重な検討を求めたものの、社保事務所は、そんな判例なんぞ関係ない、行政解釈が全てだという独善的な態度に終始しました。ご相談を受けた私が電話をかけてみても、同じような対応をされたため(ほとんど小馬鹿にされましたもん)、メラメラと私の闘争本能に火がついてしまいました(笑)

 さっそくB子さんからご依頼を受けた私は、北海道社会保険審査官に対して審査請求をしたところ、あっさりと棄却されました。だいたい、審問の席で審査官自ら「審査請求に期待されても...せめて、早く決定を出します」と口にするくらいですから、てんで期待していなかったのですが。
 そこで、社会保険審査会へ再審査請求に及び、ABご夫妻やC氏、その妻子、そして親族や近所の方々との記念写真や、ABご夫妻連名宛ての手紙を多数枚と、親族の陳述書数通とを証拠提出した上、本件は上記の最高裁判例と事情を共通にする点が多く、あえて結論を異にする理由はないと主張しました。

 すると、つい最近、再審査請求を認める旨の裁決書が届きました。
 同じ再審査請求でも、労災給付に関する不服申立てを扱う労働保険審査会は、事件が滞留しているようで、何年も待たされることが多いのですが、社会保険審査会はわずか3ヶ月で立派な結論を出してくれたのです。
 内容的にも、ABご夫妻のプライバシーにかかわるため引用は避けますが、とても格調高い文章で、正直言って感銘を受けました。

 審査長の粥川正敏氏は、かつて衆議院事務局厚生労働調査室首席調査員を務めた方で、審査員の諸星裕美氏は社会保険労務士、同じく髙原亮治氏は、かつて厚生労働省で健康局長まで務められた方のようです(ネット検索した限りなので誤りがあったらゴメンナサイ)。

 北海道社会保険事務所は、ただちにB子さんへ遺族年金の支払いを開始したものの、最高裁判決より行政解釈を優先させるという独善的な態度を取ったことについての反省はありません。政権交代で「ミスター年金」野党議員から「ミスター検討中」の厚生労働大臣になった長妻さん、社会保険庁をつぶすかどうかの前に、まずはこういう現場の硬直的な姿勢を改めてください!!

 ちなみに私、目下、生活保護の関係でも、ある司法書士の方と協力共同しながら審査請求をやっているところです。こちらの方も良い結果が得られたらご報告します。